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福岡高等裁判所 昭和41年(ネ)668号 判決 1968年3月25日

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し、別紙目録記載の宅地につき、福岡法務局大牟田出張所昭和三三年五月一二日受付第二七九一号をもつて被控訴人のためなされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その一を被控訴人のその余を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、別紙目録記載の宅地(以下単に本件宅地という。)につき、福岡地方法務局大牟田出張所昭和三三年五月一二日受付第二七九一号抵当権設定登記及び同出張所同日受付第二七九二号をもつて被控訴人のためなされた所有権移転請求権保全仮登記の各抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

控訴代理人は請求原因として

一  本件宅地は、もと森慶時の所有であつた。

二  森慶時は、本件宅地を、昭和三六年二月二七日花田稔雄に売渡し、控訴人は、同年四月一一日右花田から、右宅地を買受け、同日所有権移転登記を了し、これが所有権を取得した。

三  これより先、森慶時は、昭和三三年五月一二日、被控訴人に対する債務金一〇万円(内訳、被控訴人に対する未払飲食代金五万円及び借用金五万円)の担保のため、同人のために、本件宅地につき、抵当権を設定し、請求の趣旨掲記の抵当権設定登記(以下本件抵当権設定登記という。)をなした。

四  控訴人は、昭和三八年一二月二三日、被控訴人に対し、前記債務金一〇万円及びこれに対する昭和三三年五月九日から右同日までの民事法定利率年五分の割合による利息及び損害金二万八一三五円を弁済のため提供したが、受領を拒絶されたので、同年一二月二四日、右金員を弁済供託した。

したがつて、本件抵当権は、右供託によつて消滅した。

五  次に、本件宅地には、請求の趣旨記載のとおり所有権移転請求権保全の仮登記(以下本件仮登記という。)がなされている。

六  しかしながら、森慶時は、被控訴人との間に、右仮登記の原因とされている昭和三三年五月九日付停止条件付代物弁済契約を締結したことはなく、しかも、右仮登記は森が関与しないでなされたものであるから無効である。

七  よつて、控訴人は、被控訴人に対し、本件各登記の抹消登記手続を求める。

と述べ、被控訴人の主張事実を否認した。

被控訴人は答弁として

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実は不知。

三  同第三項の事実中、本件宅地に本件抵当権設定登記がなされていることは認めるが、その余の事実は争う。

四  同第四項の事実中、控訴人の提供金額は争うが、その余の事実は認める。

五  同第五項の事実は認める。

六  同第六項の事実中、被控訴人が森慶時との間に、控訴人主張の停止条件付代物弁済契約を締結したことがないことは認めるが、その余の事実は争う。

七  被控訴人は森慶時に対し、控訴人主張のような債権を有せず、又同人との間に控訴人主張の如き抵当権設定契約及び停止条件付代物弁済契約を締結したことはない。

被控訴人は、昭和三一年七月五日、森慶時より代金額は後日決定することとして本件宅地を買受けることにし、一応代金の内金として金五万円を支払い、次いで、昭和三三年五月、右代金を金一〇万円と定め、同月末日までに残代金五万円を支払い、本件宅地の所有権を取得したものである。しかして、その間、被控訴人は、右売買契約を保全するため司法書士に仮登記を依頼しておいたところ、森慶時は、被控訴人不知の間に、その登記原因を証する書面として借用証(乙第一号証)及び停止条件付代物弁済契約書(乙第二号証)を作成し、被控訴人は、その内容を見ないままこれに押印し、これによつて本件各登記手続がなされたものである。

と述べた。

立証(省略)

理由

一  請求原因第一項の事実及び本件宅地について、本件抵当権設定登記及び本件仮登記がなされていることは当事者間に争いがない。

二  原審証人吉野文修、当審証人本田和久の各証言、原審及び当審における控訴本人尋問の結果を総合すると、本件宅地は、森慶時が昭和三六年二月二七日、花田稔雄に売渡し、その後、控訴人が同年四月一一日右花田から、これを買受け、同日自己のために所有権移転登記手続を了したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

三  しかして、被控訴人が、森慶時との間に、控訴人主張の如き本件仮登記の登記原因たる停止条件付代物弁済契約を締結したことがないことは当事者間に争いがなく、又被控訴人が、右森に対し、控訴人主張の如き債権を有しないこと及び同人との間に、控訴人主張の如き本件抵当権設定登記の登記原因たる抵当権設定契約を締結したことがないことは被控訴人において自認するところである。

四  そこで、本件各登記が有効であるか否かについて検討する。

原審及び当審における被控訴本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したと認め得る乙第一ないし第六号証、原審証人森信子の証言により乙第七、八号証中の森慶時名下の印影が同人の印章によるものであることが認め得るので真正に成立したと推認すべき乙第七、八号証、原審証人森茂樹の証言に弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は、昭和三一年七月五日、森慶時から、本件宅地を、代金額は後日決定するとのことで買受け、一応内金として金五万円を支払い、次いで、昭和三三年五月一三日頃、右森との間に、右代金額を金一〇万円と定め、即日金一万五〇〇〇円を支払い、その後、同月末までの間に、数回に亘つて残代金の支払を了した。しかして、被控訴人は、同年五月中旬頃、右森に対し、右売買契約によつて取得した本件宅地の所有権を保全するために、これが仮登記手続を求め、同人の承諾を得た。しかるに、右森はその頃、その登記手続のための書類の作成方を司法書士に依頼するに際し、同司法書士をして、登記原因を証する書面として、(イ)被控訴人が、右森に対し金一〇万円を、弁済期昭和三三年一二月末と定め貸付け、右森は、その担保として、本件宅地に抵当権を設定する旨の借用証書と題する書面(乙第一号証)及び(ロ)右貸金債務を、右森が、右弁済期限に弁済しないことを停止条件として、本件宅地の所有権を被控訴人に代物弁済として移転する旨の停止条件付代物弁済契約書と題する書面(乙第二号証)を作成せしめた上、被控訴人に対し、右各書面に押印することを求めた。被控訴人は、右書面を、前記売買による本件宅地に対する所有権を保全するための仮登記手続に要するものであると信じて、これに押印し、登記手続について、右森と共に同司法書士に依頼し、同司法書士は、右委嘱に応じ、右書面に基き本件抵当権設定登記及び本件仮登記の申請手続をなしたことが認められ、甲第二号証及び原審証人吉野文修、当審証人本田和久の各証言、原審及び当審における控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照し措信できない。

右認定事実によれば、本件抵当権設定登記は実体的権利関係に符合しないものであることが明らかであるから、無効であるというの外ない。

次に、本件仮登記についてみるに、前示認定事実によれば、本件仮登記は、本来、本件宅地の売買契約によつて被控訴人が取得した所有権の保全のための仮登記をなすべきところ、被控訴人が法律知識に乏しかつたため、前示停止条件付代物弁済契約書に基いて仮登記がなされるに至つたもので、その登記された権利関係と実質上の権利関係との間には若干の喰違いが存することが認められる。

しかしながら、元来、仮登記は、後日なされる本登記の順位を保全することを目的としてなされたものであるから、仮登記された権利関係と実質上の権利関係との間に若干の喰違いがあつてもその仮登記が後日本登記すべき権利関係を公示するにたるものである以上なお有効であると解するのが相当である。

しかして、本件仮登記は、仮登記された権利関係とその実質上の権利関係との間に同一性が存することが明らかであるから、有効になされたものというべきである。

五  以上の次第であるから、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は本件抵当権設定登記の抹消登記手続を求める部分は正当であるから、これを認容し、その余は失当であるから、これを棄却すべきである。

よつて、右と結論を異にする原判決は、その限度において変更を免れず、本件控訴は一部理由があるので、原判決を右趣旨に則つて変更し、訴訟費用につき民事訴訟法第九六条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

大牟田市曙町四七番地

一、宅地 八七坪

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